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最高裁判所第一小法廷 昭和26年(れ)2124号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人村上信金、同塚崎直義、同佐藤達夫の上告趣意第一点について。

所論は、判例違反といっている点もあるが、原判決は、何も証拠の取捨、選択、及び事実の認定が経験則に反しても差支えないといっているわけでもなく、従って、所論の実質は、すべて原判決の証拠の取捨、判断乃至事実の認定を非難するに帰し、刑訴四〇五条の適法な上告理由と認め難い。

同第二点について。

しかし、原判決は、無条件で所論ゴム靴の押収手続に違法があるといったのではなく、却って、本件捜索押収令状(記録二冊目三六一丁)の捜索場所の表示が誤りその点が違法であるとしたに過ぎないものであることその判示上明白である。そして、本件捜索、押収令状の捜索押収の場所の表示が弘前市植田町工藤コマ方となっていることは所論のとおりであるが、記録三二五丁の報告書に被告人本人の立ち寄る所として弘前市大字植田町実母工藤コマ当五十六年方なる旨の記載があるとの原審証人三上義明、同佐藤コヨの各供述記載とによれば、前記令状の表示は、同市同町佐藤コヨ方の名違いであって、結局氏名の誤記であることが認められるから、原判決が前記のごとく単に表示が誤ったに過ぎないと判断したのは正当であるといわなければならない。従って、原判決が仮りに右ゴム靴の押収手続に右のごとき違法があるとしても、該押収物について裁判所が適法に証拠調をした以上はこれを証拠とすることのできることは当然であると解する旨説明したことは結局是認できるのである。されば、証第十一号の捜索及び押収手続に憲法三五条に違反した違法があるとの主張はその前提を欠き採用できないし、その他右押収手続に佐藤コヨを立会わせなかった旨の主張は捜査手続における単なる訴訟法違反の主張に帰し刑訴四〇五条の適法な上告理由となし難い。(なお一件記録によれば押収手続に同人を立会わせていること明らかである。)

同第三点について。

しかし、原判決の判示事実認定は、挙示の証拠で肯認できるのであって、原判決が所論のごとく被告人の前科あることだけで犯罪事実を認定し、又は供述の趣旨を変更して不可分の供述の一部だけを証拠とし、若しくは虚無の証拠で事実を認定した違法等はこれを認めることができない。されば、所論判例違反の主張は、その前提を欠き採用できない。

なお、記録を精査しても、本件では、刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって、刑訴施行法三条の二、刑訴四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野 毅 裁判官 岩松三郎)

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